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東京地方裁判所 平成5年(ワ)1630号 判決

主文

一  原告、被告丙川松夫、被告丁原竹夫、被告戊田梅夫、被告甲田地所株式会社及び被告乙野貿易株式会社は被告株式会社ダイショーに対し、別紙物件目録記載(二)の建物を明け渡せ。

二  原告及び被告丙川松夫は各自、被告株式会社ダイショーに対し、金九〇万円及び平成五年八月一日から前項の建物明渡済みまで一か月金一五万円の割合による金員を支払え。

三  被告丁原竹夫、被告戊田梅夫、被告甲田地所株式会社及び被告乙野貿易株式会社は各自、被告株式会社ダイショーに対し、平成六年八月一八日から一項の建物明渡済みまで一か月につき金一五万円の割合による金員を支払え。

四  原告の請求及び被告株式会社ダイショーのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、AないしD事件を通じてこれを一〇分し、その一を被告株式会社ダイショーの、その余を原告、被告丙川松夫、被告丁原竹夫、被告戊田梅夫、被告甲田地所株式会社及び被告乙野貿易株式会社の各負担とする。

六  この判決は、主文一ないし三に限り仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

一  請求

1  A事件

(一) 被告有限会社酒天童子(以下「被告酒天童子」という)は原告に対し、別紙物件目録記載(一)の土地及び同(二)の建物(以下順に「本件土地」、「本件建物」といい、併せて「本件土地建物」という)について東京法務局杉並出張所平成四年一二月一一日受付第四一八六八号各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(二) 被告株式会社ダイショー(以下「被告ダイショー」という)は原告に対し、本件土地建物について東京法務局杉並出張所平成四年一二月一一日受付第四一八六九号各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

2  B事件

原告の被告酒天童子に対する請求が認容されたときは、原告は被告酒天童子に対し、三一〇〇万円及びこれに対する平成八年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  C事件

(一) 原告及び被告丙川松夫(以下「被告丙川」という)は被告ダイショーに対し、本件建物を明け渡せ。

(二) 原告及び被告丙川は各自、被告ダイショーに対し二四〇万円及び平成五年八月一日から右明渡済みまで一か月四〇万円の割合による金員を支払え。

4  D事件

(一) 被告丁原竹夫(以下「被告丁原」という)、被告丙川梅夫(以下「被告丙川」という)、被告甲田地所株式会社(以下「被告甲田地所」という)及び被告乙野貿易株式会社(以下「被告乙野貿易」という)は被告ダイショーに対し、本件建物を明け渡せ。

(二) 被告丁原、被告戊田、被告甲田地所及び被告乙野貿易は各自、被告ダイショーに対し平成六年八月一八日から右明渡済みまで一か月四〇万円の割合による金員を支払え。

二  事案の概要

1  争いのない事実

本件は、本件土地建物を所有し、その登記名義人であった受継前原告甲野花子(以下「花子」という)から被告酒天童子への右土地建物の売買契約の効力が花子の意思能力の欠如を理由に争われ、同人の承継人である原告が同被告及び同被告から右土地建物を買い受けたとする被告ダイショーに対し本件各登記の抹消登記手続を求め、これに対し、被告ダイショーが右建物を占有する被告丙川、同丁原、同木村、同甲田地所及び同乙野貿易に対して同建物明渡しと賃料相当損害金の支払を求める事案であり、以下の事実は当事者間に争いがない。

(一) 花子は本件土地建物を所有し、その登記名義人であったところ、同人と被告酒天童子との間には、平成四年一二月一〇日付けの売主を花子、買主を同被告、売買代金を三一〇〇万円、引渡し及び所有権移転登記申請手続を同日とする本件土地建物売買契約書(以下「本件売買契約書」といい、右売買を「本件売買契約」という)並びに右売買契約締結の代理権(以下「本件代理権」という)及び右売買代金受領等の権限を授与する旨の花子からB事件補助参加人小山田辰男弁護士(以下「参加人小山田」という)に対する同年一一月二日付けの委任状(以下「本件委任状」という)が作成されている。右売買契約書には花子の代理人として被告丙川の署名捺印及び花子の署名捺印があり、また、右委任状には花子の署名と指印及び捺印がある。

(二) 本件売買契約に基づき、本件土地建物については、

(1) 花子から被告酒天童子のために

ア 登記受付年月日 平成四年一二月一一日

イ 登記番号 東京法務局杉並出張所受付第四一八六八号

ウ 登記原因 平成四年一二月一〇日売買(本件売買)とする所有権移転登記(以下「本件第一登記」という)が、

(2) 被告酒天童子から被告ダイショーのために

ア 登記受付年月日 平成四年一二月一一日

イ 登記番号 東京法務局杉並出張所受付第四一八六九号

ウ 登記原因 平成四年一二月一〇日売買

とする所有権移転登記(以下「本件第二登記」という。なお、右(1)、(2)の各登記を併せて「本件各登記」という)が経由されている。

(三) 被告酒天童子は、平成四年一二月一〇日、本件売買代金三一〇〇万円を花子の代理人との認識の下に参加人小山田に支払い、同人は右代理人としてこれを受領した。

(四) 花子(大正一二年一二月一日生)は平成五年一一月一六日死亡し、原告が花子を相続した。被告丙川は花子の実弟である。

また、花子の死亡後、被告丙川、同丁原(被告丙川の実子)及び同戊田並びにいずれも同丙川が代表取締役として経営する同甲田地所及び同乙野貿易が本件建物を居所、仕事場等として使用し、占有している。

2  当事者の主張

本件の中心的争点は、本件代理権授与当時の花子の意思能力の有無であるところ、右を中心に、各事件ごとに当事者の主張を述べると次のとおりである。

(一) A事件

(1) 原告

ア 花子は、平成四年九月二八日、多発性脳梗塞症、下肢血栓性静脈炎のため入院し、以後いわゆる寝たきり老人の状態に陥り、同年一一月二日当時は心神喪失状態にあった。このことは、同人の永生病院入院中の診療録から明らかなところである。

すなわち、花子にはCTスキャン検査で脳内に萎縮等の症状が認められるところ、右脳萎縮が原因で多発性脳梗塞症が発症していたものである。このために、同人は食事、衣服の着脱に全介助を要し、また、知覚障害があるため排尿排便が判断できず、おむつを当てていた。知的能力も、生年月日及び自己の所在場所(永生病院)には答えられるものの、一〇〇引く三や昼に何を食べたかの問には答えられないなど、痴呆状態がかなり進行していた。痴呆状態はその後改善をみることなく、排尿障害は継続し、同年一〇月に入ると、コインを飲み込もうとする等奇矯な行動を示すなどし、同年一二月一二日には親戚が皆死んだと話したりしている。

このように、診療録から窺う平成四年一一月二日当時の花子の痴呆状態は是非弁別能力が完全に失われ、心神喪失状態にあったことが明らかというべきである。

イ したがって、被告酒天童子及び同ダイショーの主張する花子の本件代理権授与は意思能力を欠く無効なものであり、右無効な代理権に基づく本件売買契約もまた無効というべきである。

なお、本件委任状の花子の署名は同人の実妹である丙山松子(以下「丙山」という)が趣旨を理解できない花子の手を取って書かせたものであり、同人には署名能力もなかった。指印も同様であり、丙山が花子の指を持って押させたものである。

ウ よって、原告は被告酒天童子及び同ダイショーに対し、本件各登記の抹消登記手続を求める。

(2) 被告酒天童子及び同ダイショー

ア 本件売買契約締結の経緯は次のとおりである。

<1> 被告酒天童子は、平成四年一二月一〇日、参加人小山田を代理人とする花子から本件土地建物を代金三一〇〇万円で買い受け、その旨の本件第一登記手続を経由した。

<2> 花子は、右売買契約締結に先立ち、同年一一月二日八王子市の入院先である永生病院において、参加人小山田に対し本件土地建物売却に関して本件代理権を授与した。

イ 次いで、同日被告ダイショーは同酒天童子から本件土地建物を代金四八〇〇万円、明渡期日を平成五年一月一五日限りとして買い受け、その旨の本件第二登記手続を経由した。

ウ 原告の花子の意思能力欠如の主張は理由がない。

すなわち、花子は本件代理権授与当時本件不動産売却の理由を理解し、受任者である参加人小山田が法律専門家である弁護士であることの認識の下に、本件売買契約を締結することを同人に委任する旨口頭で依頼し、そのための委任状も作成している。

ちなみに、原告の前代理人渡辺興安弁護士(以下「渡辺弁護士」という)は平成五年一月一二日に花子からA事件訴訟提起の委任を受けたものであるところ、同弁護士は右受任当時花子には右委任をする意思能力は有していたと主張しているのであり、右より約二か月以前にされた本件代理権授与当時には意思能力がなかったとするのは不合理というべきである。

(二) B事件

(1) 被告酒天童子

被告酒天童子は、本件売買契約に基づき花子の代理人である参加人小山田に対し、平成四年一二月一〇日に売買代金三一〇〇万円を支払った。

仮に、花子の参加人小山田に対する本件代理権授与が花子の意思能力の欠如により無効であり、ひいては本件売買契約も無効となれば、同人したがって原告は右売買代金三一〇〇万円を不当利得していることになるから、被告酒天童子は原告に対し予備的反訴として右売買代金三一〇〇万円相当額及びこれに対する本件口頭弁論終結の日の翌日である平成八年一〇月九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2) 参加人小山田

参加人小山田は、平成四年一一月二日、永生病院において花子と面談し、同人からその趣旨を理解した上で本件代理権の授与を受け、その際、同人は右授与につき本件委任状を作成した。その経緯は次のとおりである。

同参加人は、丙山から花子の依頼の仲介を受けたものであるが、丙山の事前の病状説明では花子は歩行ができず車椅子の生活であるとのことであったが、痴呆症状の説明は全くなかった。そして、同病院で丙山に付き添われ車椅子で病室から現れた花子は、名刺を出して挨拶をした同参加人に対し「弁護士さんですか。私は名刺を持っていない」、「松夫は私に一〇〇万円しか渡さない。お金が足りない。先生お願いします」などと金策のために本件土地建物の売却を余儀なくされている状況を認識していることを示す言葉を述べている。

また、本件委任状の作成は、花子の手がふるえて容易に署名できないため、参加人小山田は委任事項を記載した委任状を病院の売店で五枚もコピーし、記載事項を逐一説明した上で署名捺印を求めたが、花子は思うように書けず、右五枚とも無駄にしたあげく、原本として一枚残っていたものに、丙川に手を添えて貰ってようやく署名し、左手の指印を押した。同参加人は、右のようにして作成された本件委任状をその場で受け取ることをせず、印鑑を押捺して形式を整えるためと、翻意の機会を与えるために後日郵送して貰うこととした。そして、平成四年一一月一三日ころ、丙山から指印の側に押捺した本件委任状が郵送されてきたのである。

以上のとおりであるから、原告のA事件訴訟提起の委任の有効性に関する主張と比較しても、本件代理権授与行為が意思能力を欠き無効であるとする余地はないというべきである。

(三) C及びD事件

(1) 被告ダイショー

ア 被告ダイショーは前記A事件(2)記載の経緯で、本件土地建物を被告酒天童子から買い受け、これを取得した。

イ ところが、被告丙川、同丁原、同戊田、同甲田地所及び同乙野貿易は花子の死亡後本件建物を占有しており、また、原告は本件売買契約により同建物所有権を喪失したにもかかわらず、これを明け渡さない。

ウ 本件建物の一か月当たりの賃料相当損害金は四〇万円を下らず、被告ダイショーは少なくとも、被告酒天童子からの約定引渡期日以後である平成五年二月一日以降右同額の損害を被っている。

エ よって、被告ダイショーは原告及び被告丙川各自に対し、平成五年二月一日から同年七月末日までの間の賃料相当損害金合計二四〇万円及び同年八月一日から右明渡済みまで一か月四〇万円の割合による賃料相当損害金の支払を求めるとともに、右両名と連帯して被告丁原、同戊田、同甲田地所及び同乙野貿易各自に対し、右四名の不法占有開始後である平成六年八月一八日から右明渡済みまで一か月四〇万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

(2) 被告丙川、同甲田地所及び同乙野貿易

本件売買契約は、被告丙川が姉である花子と共に負担していた従前の借入金債務の整理のために、参加人小山田に買戻特約付条件で売却してくれるよう依頼したものである。しかし、右売買契約締結の際、これに立ち会った同被告は、本件売買契約書に右特約の記載がなく通常の売買契約となっていたことから疑問を覚え、同参加人に質したところ、別途念書に買戻特約は記載されているというので、これを信頬し、通常の売買として本件売買契約の締結に応じ、同参加人の指示に従って花子の代理人として右契約書に署名捺印まで行った。

ところが、本件売買契約成立の直後、買主である被告酒天童子は同ダイショーに対して本件土地建物を売却してしまい、買戻しができなくなったものであり、被告丙川は右関係者らに騙された。そこで、同被告は渡辺弁護士に依頼して右土地建物を花子名義に取り戻すために、A事件の訴訟提起を依頼した(右提訴につき花子はその趣旨を理解して同弁護士へ委任したものである)。また、同被告は花子(その死亡後は原告)のために右土地建物を回復するまで、これを管理するよう同弁護士から指示されている。

以上の次第で、被告丙川は正当な権限に基づき本件建物を占有し、また、同甲田地所及び同乙野貿易の社員である同丁原(同丙川の実子でもある)及び同戊田を同建物に居住させるなどして同建物を占有させ、もって原告のためにこれを管理している。

(3) 被告丁原及び戊田

被告丁原及び同戊田は、被告丙川の指示により本件建物に居住し、これを占有しているが、生前の花子から平成四年一〇月中旬ころ入院先の病院で右建物の管理を委託されているところでもあり、今は相続人である原告のために今後とも右占有を続けるつもりである。

三  裁判所の判断

1  基本的争点である花子の参加人小山田に対する本件代理権授与当時の意思能力の点から判断する。

(一) 《証拠略》によれば、花子は平成四年九月二八日に多発性脳梗塞症の罹患のために永生病院に入院し、右入院は同年一二月二五日まで継続され、その間治療を受けるとともにリハビリ訓練に励んだこと、右脳梗塞のため痴呆症状も発症しており、同年九月末ころから一〇月ころにかけての症状の特徴としては、簡単な計算や昼に何を食べたかなどの質問に答えられなかったり、五〇〇円玉や一〇〇円玉を食べようとしたり、その他趣旨不明のことを喋ったりする様子が現れていることが認められる。しかし、右各証拠を検討すると、その間常時判断能力が失われているというわけではなく、右の計算等の質問の際にも、自身の生年月日や所在場所(永生病院)は正確に答えていること、リハビリに対してはその目的を理解した上でその効果のないことを訴えているのが大半であるが、意欲を持って参加していることもあること、また、全体に無気力な反応が窺われるが、その原因としては右脳梗塞ばかりではなく、夫の死亡(平成二年二月九日)による精神的落胆に加え、花子の財産を巡る実弟や実妹の争いに起因する精神的疲労の蓄積が多大の影響を与えていることが窺われること(花子も金銭に相当な執着を示している)、特に入院中の花子の様子を身近に観察している看護婦の看護記録を見ると同年一〇月及び一一月中の記載として花子が気分の良いときは雑談ないし会話に興じているなどと記載されており、本件代理権授与の日である同年一一月二日には会話が良好であったことが記載されていること等が認められるのである。

すると、右の永生病院の記録からは、花子は平成四年一一月初めころには多発性脳梗塞のために痴呆症状を呈するようになってはいたものの、常時判断能力を喪失していたものと断ずることには躊躇を覚えるといわざるを得ない。

(二) そこで、右事実を踏まえ、本件代理権委任時の状況を更に検討してみるのに、前記争いのない事実及び右認定事実に《証拠略》によれば、参加人小山田は平成四年一一月二日永生病院において入院中の花子と面談したが、その際、同人は車椅子に乗ったままではあったが、面談中同参加人が花子の判断能力に疑問を感じることはなかったこと、花子は同参加人が弁護士であることを認識し、花子が負担していた二五〇〇万円の借入金債務の清算のために本件土地建物を売却することを同参加人に依頼したこと、そこで、同参加人が本件委任状を起案し、委任事項として右土地建物の売却、右売買代金の受領及び右債務の弁済等清算手続を記載し、これを逐一花子に説明し、同人はこれを納得したこと、そして、本件委任状のコピーに必死になって署名を試みたが、手が激しく震えて横長になり上手く書けず、コピー全部を失敗したこと、そのため、同参加人の指示に従い、残った原本に丙川が手を添えて署名し、左手で指印を押したこと、そして、同参加人が翻意の機会を与える意味もあって右委任状に印鑑を押して送付するように指示したところ、右指示どおり指印の横に印鑑を押捺した本件委任状が同参加人に郵送されてきたこと、右委任状に基づき、同年一二月一〇日、西日本銀行新宿支店において本件売買契約が締結されたことの各事実が認められる。

右事実によれば、花子は本件売買契約の趣旨、目的を理解し、本件委任状の委任事項も理解し、それ故に不自由極まりない手で、何とか自力で委任状に署名をしようと試みたものと理解するのが合理的である。

(三) 以上によれば、花子の参加人小山田に対する本件代理権授与は有効であり、したがって、右代理権に基づき締結された本件売買契約もまた有効なものというべきである。

2  A事件について

本件各登記の存在は当事者間に争いがないところ、前記認定、判断のとおりであり、本件売買契約は有効であり、また、被告酒天童子から被告ダイショーが本件土地建物を買い受けたことは《証拠略》によりこれを認めることができる。

よって、原告のA事件の請求はいずれも理由がなく、失当である。

3  C及びD事件について

(一) 前記認定のとおり、被告ダイショーは本件土地建物の所有権を有するところ、被告丙川、同丁原、同戊田、同甲田地所及び同乙野貿易が花子死亡後本件建物を占有して現在に至っていることは右当事者間に争いがない。

被告丙川は、その占有権原について本件売買契約が買戻特約付のものであったことを指摘するもののようであるが、右特約が交わされたことは《証拠略》から窺うことができないではないが、右特約のみから当然に同被告の本件建物に対する占有権原が生じるものではなく、同被告の占有権原の主張は理由がなく、失当である。

また、その余の被告丁原らの占有権原の主張は、花子から委託されたとか被告丙川の指示を受けたなどというものであって、何ら被告ダイショーに対抗し得るものではない。

右のとおりであり、被告丙川らは本件建物に対する正当な占有権原を有しないから、被告ダイショーに対し同建物を明け渡すべき義務があるというべきである。なお、原告も被告ダイショーとの関係では同建物を不法に占有するものであり、これを同被告に明け渡すべき義務がある。

(二) 本件建物の平成五年八月一日当時の賃料相当額は弁論の全趣旨により一か月当たり一五万円と認めるのが相当であり、これを超える請求部分は理由がなく、失当である。

すると、被告ダイショーに対し、原告及び被告丙川は各自占有開始後である平成五年二月一日から同年七月末日まで合計九〇万円及び同年八月一日から本件建物明渡済みまで一か月一五万円の割合による賃料相当損害金を、被告丁原、同戊田、同甲田地所及び同乙野貿易は各自平成六年八月一八日から右建物明渡済みまで一か月一五万円の割合による賃料相当損害金を支払うべき義務がある。

4  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤村 啓)

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